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2022-05-18

うれしの茶【前編】段々茶畑の景色と、美味しいお茶のためのひと手間|新茶前線北上レポート

 こんにちは。新茶前線レポーターの山田璃々子です! 新茶前線北上2ヶ所目の今回は、佐賀県「うれしの茶」の、井上製茶園さんからお届けします。

 「うれしの茶」の主産地である佐賀県の嬉野町は、なだらかな山間部の景色が多い地域。山の上は昼と夜の温度差があるなど、お茶栽培に適した環境とされています。

 「所変われば、品変わる」という慣用句もあるように、また違う表情をしたお茶、さらにはお茶づくりへの想いに出会いました。

特徴的な「段々茶畑」の景色

うれしの茶

 井上製茶園さんのお茶畑があるのは、山道をかき分けるように登った標高300mの場所。道中には、石積みの上に茶畑が広がる、段々畑ならぬ“段々茶畑”の光景が広がります。周囲の石を積んで、農作業がしやすいように平らに広がるお茶畑の形になったそうです。山間部でお茶を育てるための、先人達の知恵が今も生きているのですね。

うれしの茶

 段々茶畑の景色を楽しみながら山道を登って到着したのは、開けた場所に広がるお茶畑! 早速、井上製茶園さんの茶畑へ案内いただき、作業を体験させていただきました。

 私がお伺いした日は4月28日。3日前に訪れた知覧ではすでに新茶を摘んでいましたが、井上製茶園ではこれからでした。今年の4月の春雨と冷え込みがお茶の育ちを遅くし、例年より1週間ほどお茶摘みの時期が後ろになっているとのこと。日々の天候によってお茶の育ちは変わるため、摘む日を見極めるのも大変ですね。

美味しいお茶のためのひと手間「バロンかけ」

うれしの茶
うれしの茶

 知覧では、茶畑にかかった黒い布(バロン)を外す作業を体験しましたが、嬉野では、バロンをかける作業をお手伝い。お茶摘みの約1週間前から、茶畑にバロンをかけて太陽の光を遮光します。新芽が2~3枚出てきた時がバロンかけの合図だそう。棒を上手く使いクルクルと、二人三脚でバロンをかけていきます。

うれしの茶

 その後、風でバロンが飛ばされないように、さらにはバロンが風になびいてお茶の葉に擦れて痛まないように、洗濯バサミのようなクリップで茶の木に留めていきます。

うれしの茶

 茶畑1面分のバロンかけが終了したのはお昼過ぎ。しゃがんだり立ったりをくり返し、バロンかけ作業を終えたときには「これだけ人の手がかかっていたのか」と、筋肉痛になりながら感動しました。

うれしの茶

 意外とハードなバロンかけですが、お茶の「色」や「旨み・甘み」を引き出す大事な作業。太陽の光を遮ることにより、お茶の木は、少しの日光でたくさん栄養を作ろうと頑張ります。具体的には、光エネルギーを吸収する役割の“葉緑素”を増やし、この“葉緑素”は緑色の色素のため、葉緑素が増えると濃い緑色の茶葉になるという訳です。そしてお茶の木は、アミノ酸や、旨みの元となる成分などの栄養を必死に葉に集めるため、より旨みと甘みが強くなるそう。バロンかけは、植物の持つ本能を利用しているのですね。美味しいお茶のためのひと手間、最初に考えついた人には頭があがりません。

うれしの茶

 ちなみにバロンかけで大活躍だった棒は園主・井上さんのお手製道具! さらにはバロンを巻き取る時に使う「巻き取り機」も井上さんの手作り。以前は、蛇腹のように折り畳んだバロンを使っていましたが、鹿児島で茶農家を営むご親戚が、巻き取り機を使っているのを見て「ロール状に扱えて便利そう!」とオリジナルで作成されたそうです。

 小さい頃、大工さんになりたい! という夢をもっていた井上さん。道具をつくったり機械を修理したり、その頃の夢が、活かされている瞬間があるとおっしゃいます。こうした、作業の手助けになる道具がどんどん増えるといいですね!

加工場の試運転で、お茶づくりの感覚を取り戻していく

 新茶前線を追いかけてきて、地域によって新茶の時期が違うことを体感しましたが、同じ地域でも品種や標高の違いによって、お茶の成長は異なります。先程バロンをかけた所とは別の場所にある茶畑は、ちょうど摘採の時期にさしかかっているとのこと。ちょうど明日、約1年ぶりにお茶の加工場を開き、機械の試運転をするそうで、そのための茶葉を乗用型摘採機で刈り取ります。

うれしの茶

 お茶の加工場が開いている時期は1年中ではありません。収穫後、新鮮なうちに加工するのが肝心なお茶は、基本的に茶葉の収穫時期のみ開いているといいます。井上製茶園さんでは1年のうち、合わせて1ヶ月ほどしか開かないとのことでした。それゆえ、工場を開く前は機械の掃除や、試運転をするのです。新茶シーズンが本格的に始まる前に、機械を動かしながら、ご自身のお茶づくりの感覚も取り戻していくそう。何事も準備運動が必要です。

 茶葉収穫後はすぐに、加工場へ戻り、大きなコンテナに移します。加工場では、いくつもの機械を使い、時間をかけてお茶を仕上げていきます。お茶にとって「加工」は、理想のかたち・味・色・香りのお茶にする大事な工程。その日の茶葉の様子に合わせて、蒸す温度や時間、機械の角度、揉む時間、風の強さなどなど、機械の設定を細かく調節していきます。生きている茶葉を扱うため、機械のボタンひとつでOKという訳ではありません! このように収穫後に加工する農作物は珍しいのではないでしょうか。

うれしの茶

うれしの茶

 後編では、加工場の試運転の様子と「うれしの茶」の特徴、今年の新茶について教えていただき、お茶づくりに熱い想いを持つ井上さんと嬉野のこれからをお届けします!

うれしの茶【後編】伝統の形「玉緑茶」と、次の世代のお茶づくり|新茶前線北上レポート

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