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2022-05-24

うれしの茶【後編】伝統の形「玉緑茶」と、次の世代のお茶づくり|新茶前線北上レポート

 こんにちは。新茶前線レポーターの山田璃々子です! レポートの後編ではお茶の加工を通して「うれしの茶」の特徴や、今年の新茶の様子についてなどのお話をお届けします。

くるんと丸まる「玉緑茶」

うれしの茶

 今日はいよいよ加工場の試運転の日。昨日とった茶葉を早速機械へ! はじめに蒸された茶葉は、その後「揉み」の工程に入っていきます。一言で「揉み」といっても「粗揉(そじゅう)」「揉捻(じゅうねん)」「中揉(ちゅうじゅう)」など、多くの揉む工程があることに驚きました。工程が進むにつれて、葉の中から水分を抜いていきます。

うれしの茶

 素人の私が目で見て分かるくらい、工程が進むにつれて、食卓でみるお茶の葉の形へと変わっていきます。全ての揉む工程が終わって出てきた茶葉が、下の写真です。なんだかくるんと丸まっていますね。実は、この形は「うれしの茶」の特徴だそうです。

うれしの茶

 嬉野は、釜で炒ったお茶=「釜炒り茶」の発祥とも言われる地。お茶を炒ると「勾玉(まがたま)」のようにくるんとした見た目になることから、後に、この辺りのお茶は「玉緑茶(たまりょくちゃ)」と呼ばれます。現在は釜炒りではなく、蒸し製のお茶が主流ですが、釜炒り茶の名残で、くるんとしたお茶づくりが行われているのです。炒っていないのに、どうやって丸みを出しているのでしょう? 

うれしの茶

 その秘密は工程の中にありました。全国的に使われる最終工程の「精揉(せいじゅう)機」を通さず「再乾機」という機械に茶葉を入れ、回転させることでくるんと丸まっていくようです。普段よく見るお茶は、針状の細い茶葉に整える工程がありますが「玉緑茶」では行われません。

うれしの茶

 様々な種類の「揉み」工程を経て、葉から水分が抜けたあとは、仕上げの「乾燥」を行なっていきます。最初の工程からここまでだいたい5時間。これでやっと「荒茶」と呼ばれる商品の一歩手前の段階になります。普段、私たちがお店で手にするお茶は「荒茶」にさらに「仕上げ加工」を施したものなんです。完成までの道のりはまだまだですね……!

 現代は多くの機械を経て加工されるお茶ですが、機械化以前は「手」で揉んで加工していました。機械は、手の動きを再現し大きな規模にしただけ。お茶づくりの根本は昔から一緒だと、井上さんに教わりました。

お茶の空間も楽しむ、ティーツーリズム

 嬉野では「嬉野茶時」というプロジェクトがあり、井上さんもメンバーの一員。「うれしの茶」「肥前吉田焼」「温泉(宿)」と、嬉野の3つの伝統文化に着目し、時代に合わせた新しい切り口で文化体験を届けるプロジェクトです。茶畑作業の合間に、プロジェクトでつくった茶空間を楽しめる場所へ案内していただきました。

うれしの茶

うれしの茶

 最初に訪れたのは「杜(もり)の茶室」です。森の中を歩いていくと現れる茶畑、その中央に神殿のような佇まいの建築物。360度茶畑に囲まれて、時の流れがゆったりとした落ち着く空間が広がります。

うれしの茶

 続いて向かったのは「天茶台」。標高300mで“段々茶畑”の景色、そして嬉野のまちを一望できるとっておきの場所です。

うれしの茶

うれしの茶

 最後に訪れたのは「茶塔」。高台から見渡す茶畑の景色は壮大です。空気が美味しくて思わず深呼吸。これらの場所は普段、旅館の宿泊者に向けたオプションサービスや、イベントで使うそうです。鳥のさえずりや風の音を聴きながら、この茶空間でお茶を片手にいつまでものんびり出来たら……想像がふくらみ思わず長居してしまいました。お茶を飲むだけではなく、景色にも癒される体験ができるのも嬉野ならではかもしれません。

ゼロからの挑戦

 茶園を営んでいた叔父さんの跡を継ぐため、嬉野へ移住し、ご家族で茶業を引き継いだ井上さん一家。当時の井上さんは高校生。移住前は夏休み中に叔父さんの手伝いをしたりしていましたが、お茶づくりは実質ゼロからの挑戦。試行錯誤しながら、井上さんとお父様を中心に、二人三脚で進んできました。

うれしの茶

 高校卒業後、井上さんは静岡にあるお茶の学校へ。その当時から使っているというバイブルを見せていただきました。毎年のようにお茶の様子は変わるため、今でも読み返して、大切にしているそうです。学校では、技術を学べたことはもちろん、同じ茶業界の仲間ができたのが良かった、と井上さんはおっしゃいます。お茶づくりを始めて最初の頃は、加工場の電力が突然落ちるなど、色々なピンチに見舞われましたが、それでも「これまでのピンチを乗り越えた経験と、お茶の仲間がいるから頑張れている」と力強くお話していたのが印象的でした。

うれしの茶

 先代から続く技術だけでなく、新たな農法などを取り入れながら、日々お茶づくりに邁進する井上さん。「嬉野茶時」のプロジェクトを通して、自分のつくったお茶を飲む人の反応を直接見る機会が増えたことで、お客さまが何を求めているのかが掴め、お茶づくりの視野が広がったそうです。最近では、日本茶に馴れ親しみのない人にも、お茶を手にとってもらいたいという思いから「柚子緑茶」を開発しました。ひとつひとつ柚子の白い部分を取り除くことで、苦味を抑えてすっきりとした味わいのお茶に。1から開発した「柚子緑茶」は様々な人から愛され、今では井上製茶園の定番商品となっています!

 歴史ある嬉野の地で、伝統の継承と、次の世代のお茶づくりへの挑戦を両立しながら進化する「うれしの茶」。ティーツーリズムなど多面的にお茶を楽しめるこの地で飲む「うれしの茶」は、また格別に美味しいに違いありません。何度でも訪れたい魅力的な茶産地でした。

 井上さん、井上製茶園のみなさま、ありがとうございました!

◼️「井上製茶園」公式HP:https://inoue-seichaen.com/
◼️オンラインショップ:https://shop.inoue-seichaen.com/

■うれしの茶【前編】段々茶畑の景色と、美味しいお茶のためのひと手間|新茶前線北上レポート

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