Japan Tea Action
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2022-12-26

お茶に生きる“茶人”松澤さんに聞く、お茶の力と、自分らしく伝えるお茶の魅力。

 以前、Japan Tea Actionでもご紹介した第2回「阪神日本茶フェス」 。ニューウェーブなお茶と、トラディショナルなお茶が組み合わさった“合組”フェスは、12月12日まで開催され、2回目も大盛況のうちに終了しました。

 今回は、阪神日本茶フェスのスーパープレゼンターであり、 “茶人”として日本茶の面白さを様々な角度から発信し続ける、松澤さんにお話を伺いました。日本茶フェスを企画するきっかけや、お茶への想いなど、茶人・松澤さんのお茶人生をご紹介します。

プロフィール:松澤 康之(まつざわ やすゆき)
株式会社阪急阪神百貨店勤務・日本茶インストラクター
埼玉県の茶舗「松澤園」の家に生まれる。阪急百貨店に就職し、企画の仕事を続ける中で日本茶の魅力を改めて感じたことから2012年、日本茶インストラクター資格を取得。仕事で培った企画力を生かしつつ、“茶人”として企業や学校、地域とコラボ。現代にフィットするお茶会や茶摘み体験などのお茶のプロジェクトを立ち上げ、ワクワクするような新しい日本茶シーンを生み出している。

離れて気づく、身をもって感じたお茶の力

―― 松澤さんご自身のお茶との出会いはいつですか?

 実は、実家が埼玉県で「松澤園」というお茶屋をしていまして、私は3代目なんです。さらに、叔母が茶道の先生もやっており、生まれた時からお茶は身近にありました。ただ、後継あるあるだと思うんですけど、昔は家業が嫌いで。お茶屋って言われると恥ずかしいと思っていたんです。友達の家に遊びに行くと、夕方頃にスーツのお父さんが帰ってきて……。そんなサラリーマン家庭に憧れていました。

―― そうだったんですね。今はお茶を楽しまれていることを思うと驚きです。

 反発する気持ちもあって、就職を機に地元を離れました。実家のお店のお手伝いをする中で、接客は好きだったので、遠く離れた大阪で百貨店に入社したんです。

―― そこから、お茶に関わるようになったきっかけは何ですか?

 1つは、お茶が盛んな京都が近くにあったことですかね。京都のお茶屋さんは、お茶1杯1,000円とかで販売していて。それを見た時に、ちゃんとお金を払う価値づくりができるんだな、とお茶の存在を見直すきっかけになりました。

 もう1つは、働き始めて5年目ごろ、仕事もプライベートもしんどい時期があったんです。そんな中、いつも実家から送られるお茶を、たまたま丁寧に淹れてみました。そうしたら、おばあちゃんと一緒に飲んだ時の光景など、色々思い出して……。じわじわと涙が出てきたんです。楽しかったころの記憶が蘇ってきて、気持ちがリフレッシュできました。お茶って味の美味しさはもちろんだけど、記憶に紐付いている良さというか、そういう価値もあるなと思いまして。それで、一回勉強してみようかなって思ったのがきっかけです。

―― 心温まるお話です。離れてから、身をもってお茶の力を感じたんですね。

 そうですね。ただ、実家に帰って父に教えてもらうのは、気恥ずかしくって(笑)。というわけで、自分で勉強して「日本茶インストラクター」という資格を取りました。日本茶インストラクターには実技試験があるんですが、私が受けた時には「古い順にお茶を並べよ」という難問が出たんです。数種類のお茶を飲んで答えるんですが、意外と分かったんですよね。小さい頃から培っていた経験が生きて、試験に受かった時は実家に感謝しました。

―― 知らず知らずのうちに、お父さまから鍛えられていたんですかね。

 そうかもしれませんね。実は、日本茶インストラクターの資格を取ったことを、父に自分から伝えていなくて……。他の方から聞いて、喜んでくれたみたいです(笑)。

百貨店と茶人の二刀流。新しい切り口でお茶の魅力を発信。

―― 日本茶インストラクターになって、松澤さんのお茶人生が改めてスタートですね。現在は“茶人”として活動されていますが、どのような意味が込められているのですか。

シンプルに「お茶を伝える人」という意味では、コーヒーでいう「バリスタ」に値するのかなと思います。ただ、私は“お茶界のバリスタ”を目指すのではなく、生き様と言いますか、お茶を「生き方で再現している人」という意味を込めて「茶人」と名乗っています。

―― 茶人と百貨店の二刀流ですね。

 そうですね。資格を取得してから、お茶について自分で企画したりするようになりました。一方で、色々なお茶屋さんと話していると、マイナスな言葉を聞くことが多いんです。茶畑がどんどん無くなっちゃってとか、急須で飲む人少ないなあとか。そんな話を聞いて、お茶の魅力を伝えるにはどうすれば良いのか、もっと面白く伝えたい! という思いが募りまして。自分なりのやり方で、お茶業界に貢献できる方法はないか模索していたんです。その中で、百貨店という流通交流の大きな場で、お茶の企画をすることは相当な意義があるな、とずっと考えていました。それがやっと形になったのが「阪神日本茶フェス」です。

―― 日本茶フェスのお客さまの反応はどうでしたか?

 お陰様で大成功でした。伝統的なお茶屋さんが急須でお茶を淹れているのを、若い方が動画で撮影していたり。逆に、伝統的なお茶屋さんにお茶を買いに来たおじいちゃんおばあちゃんが、新進的なお茶屋さんで抹茶ラテを一緒に買っている光景があったり。世代を超えてお茶を楽しんでもらえました。

 よく「三方良し」と言いますが、日本茶フェスは、私としては「五方良し」になったと思っています。まずは、お客様に好評でした。次に、出店したお茶屋さんも喜んでくれました。そして、売上が上ったので百貨店も喜びました。4つ目は、企画者として楽しかった私で(笑)。最後は、日本茶の未来に対して良かったんじゃないかと思います。

―― 他にどういったお茶活動をされていますか。

 自分の強みを活かして、違う業界の人と積極的にコラボする「お茶 × 〇〇」を意識して活動をしています。例えば「お茶 × サウナ」では、茶畑の中にテントサウナを置いて、ロウリュをほうじ茶にしてみたりとか。主に、観光と教育の2つの軸をメインに活動しています。

 今後の活動として力を入れていきたいのは、お茶の楽しみ手を増やすことです。作り手でも、淹れる人でもなく、純粋に楽しむ人を増やしたいので、お客さまとの接点づくりはもっとやっていきたいですね。個人の小さい単位では、観光・教育に紐づいたお茶のイベント。大きな単位でいうと、百貨店という場の力を使って、もっともっと多くの人にお茶の魅力を伝えていきたいです。

お茶×観光=天空の茶畑お茶摘みツアーの様子

―― ありがとうございました。最後に、松澤さんが思うお茶の魅力、面白いところを教えてください。

 お茶は、世界中どこでも飲まれているじゃないですか。「お茶しようよ」って相手との距離が縮まる、そんなコミュニケーション媒体になれるんです。飲んで美味しい、食べて美味しい、飲むとリフレッシュできるのはもちろんですけど、個人の満足にそれが留まらない。相手がいて、お茶って間に入れる。様々な方と繋がれるところがお茶の魅力なのかなと思っています。お茶自体がコミュニケーションツールの一つですし。

 お茶が身近ではない方には、まずは、街中のお茶屋さんでも百貨店でもいいので、お茶専門店に行って、お茶を一袋だけでも買ってほしいです。そこから沼にハマっていくと思います。

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