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2024-11-10

「点てる」を広げる。抹茶との出会いを届ける「紙の茶筅」誕生

 みなさんは、抹茶を点てたことはありますか。誰もが知る定番の抹茶ですが、抹茶スイーツや、抹茶のお菓子がメインで、抹茶を点てて飲む機会は中々ないかもしれません。一度は美味しい抹茶をキチンと点てて飲んでみたいものですよね。

 抹茶を点てるために必要な道具といえば「茶筅」がまず思い浮かびます。美味しい抹茶を点てるのに欠かせない道具ですが、その価格や扱い方に少し敷居の高さを感じる方も多く、気軽に抹茶を点てる環境は少ないのが現状です。

 そんな中、「もっと手軽に抹茶を楽しんでほしい、良い抹茶との出会いを広げたい」という思いから、新しく誕生したのが「紙の茶筅」です。開発者である「茶々助」代表の今川さんは、愛知で抹茶専門店を営まれていた抹茶オタク。そんな今川さんのこだわりが詰まった「紙の茶筅」の魅力を、ご本人に直接お伺いしました。

 


プロフィール:今川 宏二(いまがわ こうじ) / 茶々助 代表
1977年生まれ。愛知県出身。地元愛知県が抹茶と縁深いことから興味を持ち、茶道の稽古や、京都の茶農家の生産現場で抹茶を学ぶ。 2016年に「高品質の抹茶を気軽に楽しむ」がコンセプトの茶々助を開業。手の怪我や感染症拡大の影響を受け2020年実店舗を閉店。 茶々助での経験から、高品質の抹茶が楽しめる機会や、新たな市場を創造するため紙製の茶筅を発案した。

抹茶文化が根付く愛知で、品質のいい抹茶を楽しむ場をつくる

―― 今川さんは、元々「抹茶専門店」を営まれていたとのことですが、抹茶に着目した理由はなんでしょうか。

 元々、食品メーカーに勤めていたのですが、30歳ぐらいで独立して喫茶店をやりたいなと思っていまして。お店で何をだそうか調べていた時、私の地元の愛知県がとても抹茶と関係が深い地域だと知ったのがきっかけです。

―― 確かに愛知県は抹茶の一大産地「西尾」がありますね。

 それもありますが、単純に愛知の抹茶消費量が日本で1番だったというのもあります。今でも西の方では残っていますが、抹茶を毎日飲むという文化があるんですよ。そういう名残がいろんなところにあって、例えば愛知の岡崎市には、石臼の産地があったり、茶筅も県内で質の良いもの作っていたり。

―― なるほど、抹茶を楽しむ文化が全部揃っているんですね。

 そうです。抹茶ととても縁深い地域で、これはすごくいいテーマを見つけたなと。そもそも凝り性というか、オタク気質なので、そこからどっぷり抹茶の魅力にはまっていきました。京都にお茶を習いに行ったり、お茶農家さんの所で修行したりと、お茶や抹茶について勉強してようやく抹茶専門店を始めました。

―― 抹茶専門店ならではのこだわりはありますか。

 「品質のいい抹茶をいろんな人に試してもらいたい、その市場を広げたい」というのがコンセプトの一つです。葉っぱの状態で仕入れて、お店の中で石臼で挽いて抹茶をつくっていました。やっぱり、挽きたては美味しいですから。お店は4年ほど営業していましたが、手の怪我やコロナの影響もあって閉店しました。ただ、今もコンセプトは変わらず、やり方を変えて抹茶の活動をしています。

抹茶をもっと身近に。「紙の茶筅」開発のきっかけ

―― 抹茶は身近な存在ですが、お菓子やスイーツが多い印象です。本当の抹茶を飲む機会はなかなか無いですね。

 抹茶を気軽に楽しむとなるとやはりお菓子やスイーツですが、その多くは安価なお菓子用の抹茶が使われています。一方で、質の高い抹茶を作っている農家さんもたくさんいますが、質の高い抹茶=茶道というイメージがありませんか? 少し敷居が高いと感じる方も多いと思います。そういった層の抹茶をもっと気軽に楽しむ方法が増えたら、市場が広がって、価値も上がって、農家さんたちに還元できる。そんなふうに考えて活動しています。

―― 抹茶を楽しむには、色々と茶道具が必要ですよね。

 そうなんです。そこも敷居が高く感じる理由の一つだと思っています。抹茶を美味しく飲むために欠かせないのが「茶筅」ですが、価格も高く、扱いも難しい、他に代用品もないということで、初心者の方にとってはハードルが高いのが現状です。まずはそのハードルを下げることが、様々なシーンで気軽に抹茶を楽しめることに繋がると思い「紙の茶筅」の開発に至りました。

「しっかり点てられる」ことを一番大事に。0.1mmにこだわった設計

―― 早速「紙の茶筅」の使い方を教えてください!

 はがきサイズの2種類のパーツを組み立てて「紙の茶筅」の完成です。



 使う際は、穂先を15秒ほどお湯に浸けることで、従来の茶筅のように穂先が程よくしなります。いい茶筅は、根元は強いけど、穂先はしなやかなんです。穂先に向かって柔らかくなって、動きが出やすい設計の方がお湯をしっかりつかめて、うまく抹茶を点てられます。


―― 確かにお湯につけると先がまるまってきました。程よく弾力がある素材ですね。

 紙の茶筅を思いついた当初は、牛乳パックとか、ラミネートした紙で試作してみたりもしたんですけど、上手くいかなくて。私は毎日お店で抹茶を点てていたので、「しっかり点てられる」というのを1番大事にしていました。そこは妥協せず色々と素材を探していた時に見つけたのが、このプラスチック代替紙です。サステナブルで環境にも優しい素材です。

―― ちなみに設計する上で、他にもポイントはありましたか。

 自分でも驚きですけど、設計は0.1mm単位でこだわりました。また、お湯を染み込ませることで穂先のしなやかさを出していますが、その角度が0.5度違っても全然違うものになっちゃうんです。その辺りは試行錯誤して、突き詰めました。すみません、オタクなので(笑)。

―― 試しに使ってみましたが、しっかり抹茶を点てることができました。

 ちゃんと点てられる茶筅、というのが大前提ですので、そこはご安心ください。こんな感じで、紙の茶筅は初心者やライトユーザー向けに、より手軽に、気軽にお試しいただける茶筅です。一応、5服(5回)くらいは使うことができます。

自宅で、外で、ギフト用に… 紙の茶筅で「抹茶を点てる」シーンが大きく広がる

―― 気軽に、手軽に使える分、様々な場面で紙の茶筅を活用できそうですね。

 まずは、初心者の方やライトユーザーを中心に、自宅で「点てる抹茶」を楽しむことができるようになると考えています。人数の多い抹茶体験イベントなど、その場限りで使用したい時にも便利です。

 あとは、ギフトとしての需要もあると思っています。今まで抹茶って、ギフトとして成り立たなかったんですよ。贈る相手が茶筅をもっていないといけないので。紙の茶筅と抹茶とセットにしたギフトがあれば、お土産として気軽に買うことができます。要は「点てる」を色々な所に持って帰ることができるんです。

―― ギフトは日本文化が好きな海外の旅行客の方にも喜ばれそうですね。

 海外の方は日本文化が好きで抹茶を「点てる」体験も好まれるので、その体験ごと自国に持って帰られるのはいいですよね。

 実は、紙の茶筅にはもう1つテーマがありまして。この茶筅があると、いろんな人が気軽に抹茶を点てることができる、即ち子どもたちも点てられます。例えば、小学校に何百枚と送って、抹茶体験をしてもらうことも可能になります。野望としては、全国の子どもたちがみんな抹茶を点てたことがある、という状態になるといいなと考えています。

―― 食育や、文化継承の文脈もありますしね。

 子どもの時に、抹茶を飲んだことがある、触れたことがあるのって大事ですよね。ゆくゆくは、抹茶業界の担い手を育てるっていう意味にもなります。そんなふうに、紙の茶筅が色々と活用できる場所はあると思っています。良い抹茶に触れる機会が「紙の茶筅」で増えて、少しでも抹茶の市場が広がりに貢献できればと思います。

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