Japan Tea Action
JPENInstagrram
2022-06-28

狭山茶【前編】丁寧なお茶づくりの現場から、お花のような甘い香りの「萎凋(いちょう)茶」って?|新茶前線北上レポート

 新茶前線レポーターの山田璃々子です! 新茶前線北上レポートもいよいよ最後の地となります。5ヶ所目は、都心から最も近いお茶どころ、埼玉県・狭山茶の奥富園さんを訪れました。

 狭山で盛んにお茶が栽培されるようになったのは、江戸時代の中頃からと言われています。今回の北上レポート最後の地の通り、狭山茶は茶産地の中でも北に位置する寒冷地のお茶のため、茶摘みの開始時期が他の産地よりも遅いのが特徴です。厳しい冬を越えて育ったお茶の葉は肉厚で、深いコクと旨みにつながります。

暮らしの近くにあるお茶畑

 狭山茶のお茶畑は住宅街の中に現れます。最寄り駅を降りてから、奥富園さんに向かうまでの間にもお茶畑がちらほら。これまで巡った4ヶ所の産地とはまた違う、新しいお茶の景色に驚き! 暮らしの近くにお茶畑があるのは、うらやましい限りです。

 狭山茶は、各農家さんが、お茶づくりから販売まで一貫して行う「自園・自製・自販」スタイルが主流。生産量が多い茶産地は分業していることが多く、このスタイルが多いのは狭山の特徴です。自ら販売まで行うためお客さまの声を直接聞く機会が多く、それぞれのお茶屋さんがそれぞれのお茶を追求しています。そのため、一言で「狭山茶」といっても、様々な味・香りがあり、個性的なお茶を楽しむことができます。

 奥富園さんにも、お茶畑のすぐ近くに加工場と直売所があります。お客さまの声を直接聴きながらお茶づくりに励んでいるうちに商品がどんどん多様に! お伺いした当時、お店に40種類以上もの商品がありました。

 その中でも気になるのが「萎凋(いちょう)茶」。北上レポート5ヶ所目にして初めて聞くお茶の名前です。個性的なお茶の数々に胸が躍ります。

「ひと手間」かけた丁寧なお茶づくり

 訪れた日の翌日から雨予報だった狭山には、この日もすでに重たい雲が待機中。他の茶産地でも教えてもらいましたが、雨の日に摘んだお茶は加工しづらいため、基本的に摘みません。というわけで、雨が降る前に摘めるだけ摘むべく、この日はいつもの1.2倍収穫! 今年の新茶の季節は、午前中に晴れて午後は雨のような日が比較的多かったそうです。お天気と上手く付き合いながら、お茶を摘むスケジュールを組んでいるのですね。

 たくさん摘んだ分、加工場もいつも以上に大忙しで、このあとは夜通しで加工し続けるとのこと。全ては美味しいお茶を届けるため、本当にありがとうございます。

 さっそくお茶の葉を機械に投入し、加工場はフル稼働。「ないものは引き出せないから、畑で良いお茶を栽培することがもちろん大事。でも、あるものを最大限引き出すのが加工の腕の見せ所。」とお話してくださったのは、奥富園の園主・15代目の奥富雅浩さん。そのお話の通り、機械だけでなく「ひと手間」かけて丁寧にお茶を加工する姿がありました。

 こちらの動画は、最後の揉み工程である「精揉機(せいじゅうき)」に、茶葉を移す前です。茶葉をふるいにかけて、大きさを揃えます。精揉機には、ふるい分けた大きい方の茶葉から投入し、その後、小さい方を追加。茶葉の大きさごとに機械に投入するタイミングをずらすことで、加工のムラをなくします。

 私もふるいかけを体験させてもらいましたが、思うようにふるいを回せず…… 簡単そうに見えて意外と難しい! こうした「ひと手間」かけた丁寧な作業が、美味しいお茶へつながることを再認識です。

“萎凋茶”でお茶の新しい価値をつくる

 加工場の一角には、摘んだ後のお茶の葉が寝台のような場所でお休み中です。お茶は摘んだらすぐ加工が鉄則かと思いきや、こちらが「萎凋」というお茶の葉を萎(しお)れさせる工程。

 お茶を摘んだ後、風通しの良い場所に放置して葉を萎れさせる事によって、独特な香りが生まれます。

 最初はシャキッとしていて、ポキっと折れていたお茶の葉も、4~5時間ほど経過するとこんなにくったり! 時間が経つにつれ、お花の蜜のような甘く華やかな香りが、当たり一面に広がっていきます。

 実は「萎凋」という工程自体は昔から各地であったのですが、いつからか、お茶の品評会などで「萎凋」の香りはマイナス評価とされたそう。今は逆に新しいお茶の可能性として、奥富園さんでは、萎凋茶づくりに積極的に取り組んでいます。

 萎凋茶づくりを始めたきっかけは、遡ること4年前。摘んだお茶の葉を加工するため、写真のようなカゴに一時保管している時のことでした。いつものように、カゴの中の葉を順に機械へ投入していきます。ところがこの日は、一番上のカゴにお茶が入っていることに気付かず、加工し忘れてしまったそう。翌朝気付いたときには茶葉が萎凋しており、花のようないい香りが広がっていました。せっかくなので加工してみると、とっても香り豊かな面白いお茶に。まさか、偶然の産物として生まれたとは驚きです!

 それから本格的に商品化することになり、萎凋の方法の試行錯誤が始まります。天日干し、日陰干し、室内干しなど、さまざまな萎凋方法があり、各お茶園によって違います。奥富園さんでは当初、欅の木の下にお茶の葉を敷いて木漏れ日を活かした方法で萎凋していたそうです。その後、色んな方法を試した結果、風が通るようにファンがついた、お手製の台を使っています。こうした創意工夫から、さらにお茶の個性が広がり、新しいお茶が生まれると思うとワクワクしますね。

 後編では、最後の工程「仕上げ加工」の様子や、園主の奥富さんのお茶の楽しみ方への想いについて触れていきます。どうぞお楽しみに。

新茶前線北上中

新着記事

記事一覧
Home > 記事一覧 > 新茶前線 > 狭山茶【前編】丁寧なお茶づくりの現場から、お花のような甘い香りの「萎凋(いちょう)茶」って?|新茶前線北上レポート