Japan Tea Action
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2021-08-20

約10万人を20年間も調査! 大規模なコホート研究から知る、緑茶の健康の力

 新型コロナウイルスの発生からすでに1年以上が経過しました。生活が大きく変化したこの期間で、健康意識が高まった方は多いのではないでしょうか。ある調査では、健康への取組として、規則正しい食事や免疫力を高める食事を心がけているといった回答が見られました。

 一方で、お茶は、古くから薬や解毒剤として用いられました。今から1200年ほど前に日本に伝えられた際も、お茶は飲み物ではなく薬として輸入されたといわれています。現在でも様々な健康への効果が期待され、その情報が溢れているお茶ですが、実際のところどうなのでしょうか。コロナ禍によって私たちの健康意識が高まる中、お茶と健康に関する研究に携わる方にお話を伺い、改めてお茶の健康効果について考える特集です。

 今回は、国立がん研究センターの澤田典絵さんに「コホート研究」から明らかになった緑茶の健康効果についてお話をお伺いしました。

プロフィール:澤田 典絵
国立がん研究センター 社会と健康研究センターコホート研究部住民コホート研究室長。
1999年札幌医科大学医学部卒業、2005年北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻博士課程修了。同年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)入所。疫学研究部室長を経て、2021年度より現職。

約10万人を20年以上調査!「コホート研究」の信頼性が高い理由

―― 「コホート研究」とは、どのような研究なのでしょうか?

 「コホート研究」とは、ある一定の条件を満たす特定の集団を長期に渡って追跡する研究です。国立がん研究センターが中心で行っている「コホート研究(多目的コホート研究)」では、約10万人を対象に、1990年から20年以上も追跡している研究です。こうした大規模な研究から、私たちの生活習慣と健康の様々な関係が明らかになっています。

―― 大規模ですね。他の研究方法と比べて、コホート研究はどのような特徴がありますか?

 人を対象にした研究は色々あり、例えば「症例対照研究」は、患者さんとそうでない人を比較する研究です。この場合、患者さんには、病気になってからアンケートに協力していただくので、自分の過去の生活を思い出してもらう状況になります。すると、患者さんは、そうでない人と比べて、ご自身の過去の生活について、一生懸命考えがちで、思い出し方に偏りが生じてしまうのです。

 一方、コホート研究は、今現在のことについてアンケートを取ります。普通に生活している情報をアンケートで答えてもらい、その後どうなるかを追跡しますが、約10万人を20年間も追跡すると、初めは健康でも、時が経てば病気になる方が出てきます。この方法だと、皆等しく、病気になる前の現在の生活習慣について答えていただいているので、思い出しの偏りがありません。また、時間軸が前向きなので、原因と結果に迫れる研究であることが、コホート研究の優れている点です。こうした点から、コホート研究は科学的信頼性が比較的高いといわれています。

―― 病気後のアンケートは、無意識の内に思考が偏ることもあるのですね。コホート研究の信頼性が高い理由がわかりました。

 そうなんです。コホート研究では、過去の生活習慣が未来に与える影響を見ることで、病気・死亡とどう関係があるのかが評価できます。また、最初から病気の人に限って調査している訳ではないので、その後に発生する多くの病気について検討できることもコホート研究の魅力の1つです。国立がん研究センターのコホート研究のホームページには、現在までの研究結果が400個近く掲載されています。

緑茶を飲むことで、死亡リスクが低下する?

―― そんなコホート研究から分かった、お茶に関係する研究結果について教えて下さい。

 緑茶は日本人が最も多く摂取する飲料の一つです。カテキンなど、健康に良いとされる成分が含まれています。ですので、緑茶に関するコホート研究の結果はたくさんあります。

 その一つが「緑茶と死亡との関連」についてです。多目的コホート研究では、緑茶を飲む習慣と、その後の死亡リスクとの関連について調査しています。その結果、緑茶を習慣的に飲むグループは、死亡リスクが低下しました。緑茶を1日1杯未満飲むグループを基準として比較すると、1日1~2杯、1日3~4杯、1日5杯以上と、緑茶摂取量が増えるにつれて、男性・女性ともに死亡リスクが低下する傾向がみられます。

図1:緑茶摂取と全死亡リスク

図1:緑茶摂取と全死亡リスク

出典:「国立研究開発法人国立がん研究センター」多目的コホート研究より

 また、がん・心疾患などの死因別でも緑茶との関連を調査しています。男性は脳血管疾患や呼吸器疾患、女性は心疾患や外因死のリスクが低下するという結果がみられました。

図2:緑茶摂取と死因別死亡リスク

図2:緑茶摂取と死因別死亡リスク

出典:「国立研究開発法人国立がん研究センター」多目的コホート研究より

―― 死因別でみると、男女で差があるのですね。これらの死亡リスクが下がる理由は何でしょうか?

 緑茶に含まれるカテキンが血圧や体脂肪、脂質を調節する効果があるといわれることが、理由と考察されています。また、緑茶に含まれるカフェインは、血管を健康に保つといわれます。さらに、カフェインは気管支拡張作用があるので、こうした効果が、循環器疾患や呼吸器疾患死亡のリスク低下に繋がっているのではないでしょうか。

 興味深い結果だったのは、女性の外因死の死亡リスクが下がったことです。これに関しては、はっきりした因果関係は分かっていませんが、他の研究で、緑茶に含まれるテアニンやカフェインが認知能力や注意力の改善に効果があるのではという報告が幾つかあるため、外因死のリスクが減ったのではと考察しています。

緑茶だけじゃない! 日本食と健康の関係

―― 他にも、お茶に関連する研究について教えて下さい!

 人は、緑茶が健康に良いとなっても、緑茶だけ飲んで生きていける訳ではありません。色々な食べ物を口にしているので、食事パターンと病気との関連をみる研究は注目されています。例えば、緑茶を含んだ「日本食パターン」のスコアが高いグループは死亡リスクが低下する、といった研究結果もあります。多目的コホート研究で定義した「日本食パターン」とは、ご飯、みそ汁、海草、緑茶などの日本食に近いだろうとされる8項目を選んで、その摂取量で点数化したものです。点数が多ければ、日本食パターンのスコアが高いということになります。この研究の結果、最も日本食パターンのスコアが低いグループと比較すると、最も高いグループは全死亡リスクが14%下がりました。

 死因別に見ると、循環器疾患、心疾患はリスクが下がる結果でした。ちなみに、がんは関連が見られませんでしたが、発癌のメカニズムが臓器別に違うことによると考えられました。例えば、肺がんは喫煙が大きなリスク要因となるので、健康によいと思われる食生活も喫煙の影響で打ち消されてしまう可能性があります。

図3.日本食パターンと死亡リスクとの関連

図3.日本食パターンと死亡リスクとの関連

出典:「国立研究開発法人国立がん研究センター」多目的コホート研究より

――  確かに。普段摂取する様々な食物が体に影響しているのですね。日本食パターンの8項目別で比較するとどうでしょうか?

 8項目ごとに、摂取量が少ない人を基準として、摂取量が多い人を比べると、海藻や漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶では、摂取している人の方が死亡リスクが低い、という結果となりました。緑茶にはカテキン、野菜にはビタミン、海藻にはミネラルなど、これらに含まれる栄養素が、死亡リスクを下げているのではないかと考えられます。

図4.各食品項目の摂取量が多いグループと全死亡リスクとの関連

図4. 各食品項目の摂取量が多いグループと全死亡リスクとの関連

出典:「国立研究開発法人国立がん研究センター」多目的コホート研究より

お茶と健康について、澤田さんが思うこと

――  最後に澤田さんが思う「お茶と健康」について教えて下さい。

 結局は、バランス良く食べることが大事だと思います。色々なものを食べつつ、体にいいものを取り入れ、体に良く無いと分かっているものは取り入れない。体に良いものも、そればかり食べるのではなく、バランスよく取り入れて頂きたいです。その中で、緑茶は死亡のリスクも下げますので、緑茶も取り入れていくと良いかと思います。

――  ありがとうございました。緑茶の死亡リスク低下など、コホート研究から多くの発見ができ、この結果を活用して色んな商品やサービスが生まれると思うと、面白い研究ですね。

 そうですね。地味な分野ですが、色々な成果を出していますので、多くの人に正しく知っていただけたらと思っています。コホート研究は多くの大学や研究所で実施しています。私たちのコホート研究の結果が確からしいかどうか判断するには、メカニズムも説明でき、他の研究からも同じ様な結果が出て、ようやく、確かな情報ですね、という話になります。つまり、一つの研究だけではなく、色々な研究の結果を総合的に評価することで、科学的根拠に基づいた結果となります。

 世の中には色んな情報が散乱していますが、正しい情報を届けたいです。正しい情報というのが、科学的根拠、すなわち研究結果に基づいたエビデンスになるのかなと思います。

■関連情報
・緑茶摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について:https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3526.html
・日本食パターンと死亡リスクとの関連について:https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8499.html

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