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2022-07-07

狭山茶【後編】磨きをかける「仕上げ加工」と、広がるお茶の楽しみ方|新茶前線北上レポート

 こんにちは。新茶前線レポーターの山田璃々子です。ラストとなる狭山茶レポートの後編では、最後の工程「仕上げ加工」の様子や、奥富園の園主・奥富さんのお茶の楽しみ方への想いについてお届けします。

お茶に磨きをかける最後の工程「仕上げ加工」

 奥富園さんを訪れて2日目の5月13日、狭山は朝から本降りの雨。前編でお話した通り、この日の雨に備えて前日に茶葉を多めに摘んだため、蒸して、揉んでの加工は朝方まで続いたようです。ここまでの作業でいったん「荒茶(あらちゃ)」という、茶葉を保存できる乾燥した状態になりました。

 取材2日目のこの日は「荒茶」を仕上げていく作業=「仕上げ加工」を見学させていただきました。実は「荒茶」の段階ではまだ完成形ではないお茶たち。ここからさらに茶葉の大きさや重さごとに仕分けたり、火を入れたりすることで、私たちが普段飲むような商品になるのです。今回の北上レポートで「仕上げ加工」を見学したのは狭山が初めてでしたが、基本的にはどの茶産地でも、荒茶加工の後に「仕上げ加工」が続きます。仕上げ加工も、経験と技術が必要な、お茶の味わいを決める大事な工程です。

 まずは荒茶を茎と葉に分け、その後、複数のふるいにかけて大きさを分けていきます。機械を使ってふるいにかける工程に加え、奥富園さんでは、人の手で丁寧にふるいにかける作業も行うのです。人の目で確認しながら丁寧にふるい分けていきます。

 ふるい分けた茶葉はそれぞれ別の機械へ。写真の機械では、茶葉の重さを軽いものと重いものに分けていきます。一見同じように見える荒茶も、重さや大きさを分けていくと数種類に分かれることに驚きです。

 ふるい分けた茶葉のうち「頭茶」と呼ばれる大きな茶葉は、中華用の包丁を使って細かく切断。その他の茶葉も調整されて、全ての茶葉が余すことなく、お客さんの嗜好や販売価格にあわせて商品として使われるのです。

 次は「火入れ」という工程です。茶葉を加熱することでお茶に香ばしい香りをつけ、味わいを豊かにします。他にも、茶葉をしっかりと乾燥させて品質を保つための工程でもあります。

 「火入れ」もお茶の個性を決める重要な工程で、職人の腕の見せどころです。火の温度や加熱する時間によって香りや味が大きく変わります。季節や、その日の気温、湿度等もふまえて「火入れ」設定を細かく調整するとのこと。熟練の確かな技術や経験が必要となります。

 この日、奥富園さんではおよそ50秒「火入れ」を行いました。右が火入れ前、左側が火入れ後の茶葉です。火入れ後のお茶は少し色が変わっていました! 実は、狭山では「狭山火入れ」という伝統的な方法があり、狭山茶の特徴のひとつでもあります。狭山の気候は、他のお茶産地と比べて寒い地域。厳しい冬を越えようと、肉厚なお茶の葉が育ちます。厚い葉なので強めに「火入れ」を行うのが伝統的な「狭山火入れ」です。

 こうした「仕上げ加工」を終えて、やっと私たちの元にお茶が届きます。茶畑で葉を摘み取ってから、幾つもの工程を経た長旅でした。知ってからお茶を飲むと、より味わい深くなるのではないでしょうか。

お茶の楽しみ方を広げ、未来へ繋げていく

 江戸時代から15代も続く奥富園さん。園主の奥富雅浩さんは、お茶づくりだけでなく、お茶の楽しみ方を広げる活動にも精力的に取り組んでいます。

 その活動の一つが「淹茶(えんちゃ)選手権」という大会です。たとえばコーヒーのバリスタのように、お茶も、淹れる人によって味わいが変わります。そこで、お茶を淹れる行為を「淹茶」と名付け、淹茶をする人のパフォーマンスを競うのが「淹茶選手権」です。お茶自体に焦点を当てた審査はありますが、お茶を淹れる人に注目した取組があまりないと気づいたことが、大会開催のきっかけだそうです。お茶を淹れる行為をエンターテイメント化することで、飲むだけじゃないお茶の楽しみ方が広がりますね。

 このような活動に精力的に取り組む理由を尋ねると、シンプルに「気づいちゃったから」とのこと。前編でも紹介した通り「自園・自製・自販」スタイルが主流の狹山は、お客さまと直接関わることが多いのが特徴です。色々なお客さまの声を聞く中で「急須でお茶を飲む」年齢層が偏っていることに気づいた奥富さん。少しでも、お茶を未来に繋げるために、できる取り組みを行っています。

 丁寧なお茶づくりを続け、お茶の未来を開拓する奥富園さんのお茶は、2021年度のお茶の全国品評会で、なんと最高位である農林水産大臣賞を受賞! 品評会に出品するチャレンジを続けるのは「いいお茶づくりを学ぶため」とのこと。品評会で学んだことを普段のお茶づくりに活かし、より美味しい、面白いお茶を求めてまだまだ進化しています。これからどんな風に奥富園さんのお茶づくりが進んでいくのか、とても楽しみです!

 奥富さん、奥富園の皆さま、ありがとうございました!

◼️「奥富園」公式HP:https://okutomien.theshop.jp/

■狭山茶【前編】丁寧なお茶づくりの現場から、お花のような甘い香りの「萎凋(いちょう)茶」って?|新茶前線北上レポート

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