Japan Tea Action
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2024-06-17

お茶文化と共に発展。想いを継ぐ「金継ぎ」体験レポート

 みなさんは、大事にしていた器が割れてしまった時、どうしますか。 先日、Japan Tea Actionのスタッフが使っている急須が割れてしまいました。割ってしまったことを後悔しつつ、思い入れのある急須でしたので、なんとか復活させて、またお茶を淹れたい! との想いで行き着いたのが、日本の伝統技術「金継ぎ」です。

 今回は、「金継ぎ暮らし」さんが開催する金継ぎ教室にお邪魔しました。ここでは初めての方でも1日で金継ぎ体験ができるということで、代表の萩原さんにレクチャーいただきながら金継ぎを体験しました。実はお茶文化ともつながりが深い「金継ぎ」の魅力をレポートします。


プロフィール:萩原 裕大(はぎわら ゆうた) / 金継ぎ暮らし 代表
「金継ぎを、暮らしに。」をコンセプトに、金継ぎに関する事業を展開。金継ぎの教室から、TVなどのメディア出演や、ドラマ・書籍の監修まで、幅広く活動。
食器として直せない簡易金継ぎ教室が多いなか、金継ぎ暮らしは道具に力を入れており、すべての道具が食品衛生法基準をクリアしているため、金継ぎした後も安心して器を使うことができる。
SDGsの活動にも力を入れており、食器販売店から破損した器を購入し、教室参加者の体験用として活用することで、産業廃棄物の削減に貢献している。
監修書籍:金継ぎアレンジでつくる アクセサリー&小物 繕うワザで自在に表現/メイツ出版

お茶の文化とともに発展した「金継ぎ」

―― 早速ですが、「金継ぎ」について教えてください。

 「金継ぎ」は、割れてしまったり、欠けてしまった部分を金色に装飾することから「金継ぎ」と呼ばれています。漆を使うのも特徴で、この技術は室町時代頃に発祥したと考えられています。

―― 割れた箇所を修復するだけでなく、金で装飾して目立たせるのはなぜでしょうか。

 いろんな話を聞いたことがあります。織田信長が茶の湯の流行に目をつけ、手柄を立てた家臣に茶器を褒美として与えていたと言われていますが、そんな高価な器を直す方法だから金が用いられたという話。禅の破損箇所を悪いものとは見ずに、あえて傷を隠さず、それを景色として愛でるために金にしたという話。金は体に無害とされ、古くより他の金属と区別し、茶道や懐石の食器など口にする器などに多く使われていたという話。いろんな話がありますが、お茶の文化がキッカケになっている可能性は高いと思います。

―― お茶と金継ぎは深い関係があるのですね。

 世界中に器を直す技法がありますが、傷跡を隠さず、あえて目立たせるような金色にしているというのは日本しかありません。茶道や禅の考え方はもちろん、物を大切にする日本人だからこそ生まれたのが金継ぎだと思います。

接着する、欠けを埋める、装飾する。万能な漆の技術の集合体

―― 早速、金継ぎのやり方を教えてください!

 金継ぎのやり方がたくさんあるため、様々な金継ぎ体験教室があります。1日で直るところもあれば、何回も通うところもあったり。「金継ぎ暮らし」では、大きく2つに分けて金継ぎを考えています。1つが、新しい道具使った1日で直せる金継ぎ、もう1つが何回か通って直していただく「本漆」を使った本格的な金継ぎです。

―― そもそも漆ってどういったものですか?

 漆とは、漆の木の樹液のことです。この樹液を使うのが、室町時代に発祥したとされる金継ぎのやり方です。1300年代から現代まで続いています。漆はとても便利で、割れた器をくっつける接着剤の役割になったり、欠けた部分を埋めるパテの役割になったり、また、金粉を付着させることで、綺麗な装飾を行うこともできます。全部の工程に本漆を使う、それくらい便利な道具です。

 ただ、ちょっと使いづらい部分がいくつかございます。1つが、肌かぶれのリスク。そしてもう1つは、漆が固まるまでに、湿度と温度を調節しながら数日間待たなければならないところです。漆は、湿度が70〜80%、温度20〜25℃ぐらいの環境で固まります。

―― じめっとした特殊な環境ですね。

 そうなんです。お風呂に近いような空間であることから、漆風呂とか、室なんて呼ばれています。本漆で器を接着したら漆風呂に入れて1週間待つ、そして次の工程に進む。次の工程もまた本漆を使いますから、また漆風呂に入れて数日待つ……。何度も固める作業を繰り返すことから、本漆を使った金継ぎは2ヶ月ぐらいかかってしまいます。かぶれるのが怖い、何度も通うのが大変というハードルがあるので、本漆を使わず別の道具で代用したのが1日金継ぎになっています。

―― 今日体験させていただくのは、その1日金継ぎですよね。

 そうです。本漆ではなくて、合成うるしを使っていきます。触ってもかぶれないので安心して使えますし、自然乾燥で固まるのでお客様のご自宅で乾燥させることができるため、体験後に持ち帰ることが可能です。
 そして「金継ぎ暮らし」の大きな特徴が、直した後も食器として使える点です。様々な教室でよくある1日金継ぎ体験では、現代の科学的な道具を使うので、直した後の器は食器として使えないことが多いんです。観賞用や、花瓶、小物入れなどにするしかありません。でもせっかく金継ぎしたのだから、食器として使いたいですよね。そこで、私たちは国内唯一、全ての道具を食品衛生法基準をクリアしたもので揃えました。国産の道具にこだわって、金継ぎ後も安心して食器として使っていただけます。

繊細な作業の繰り返し。ついつい没頭してしまう下地工程。

―― こちらが割れた急須です。結構派手に割れちゃってますけど…

 大丈夫です、直せますよ。早速作業を始めましょう。まずは器の接着工程から入っていきます。器が複数パーツに割れている時は、つける順番が非常に重要になります。というのも、順番によってはパーツが入らなくなってしまうからです。逆算しながらどの順番でくっつけるかシミュレーションしましょう。

―― やみくもに接着しちゃダメなんですね。

 接着する時に一番重要なポイントは、手だけの感覚だけで器をくっつけてはいけないということです。瞬間的に接着されるわけではないので、他のパーツを基準、物差しのように使って、ピタッとはまる位置を見極めます。
 今回は接着剤を使用しますが、本漆でくっつける時は、漆に小麦粉や米糊を調合することで接着できます。実は、漆を使った接着は縄文時代から行われていたと考えられています。縄文土器に、漆でくっつけた後が見つかっているんです。5000年も前から直して使う文化があったんですね。

 はみ出した接着剤を拭き取ったら、次の工程です。欠けている部分に、エポキシ樹脂という粘土のような素材を埋めていきます。約10分後に固まりますので、その間に埋めましょう。


―― よく見ると細かいところが欠けています。

 裏面も結構欠けていますね。ポイントは、この欠けた部分に対して、高さ、厚みがなるべく器と揃うことです。師匠からよく言われたのは、1番大事なのは器を観察すること。指で触るのはもちろん、器を色んな角度から見て高さを揃えていきます。


 じゃあ次に、埋めたところにやすりをかけていきたいと思います。高さを周りと合わせて、表面が滑らかになるようにしましょう。注意していただきたいのが、周りにやすりを当てると傷がついてしまいます。削りたいのは埋めた部分だけですので、ヤスリを小さく折って調節していただきたいと思います。

―― 1つ1つが没頭しちゃう作業です。いつまでもやっちゃいますね。

 そうですよね。地道ですがこういった下地の作業が重要になります。では、実際に水を入れてみましょう。水が漏れても大丈夫です。場所を特定して、そこをまた埋めればいいだけなので。

―― 底からジワジワと漏れてきました。

 一見分からないですが、割れてくっつけたところとは全然違うところから漏れていますね。うっすら亀裂があるのわかりますか? これなら後で合成うるしを塗れば止まっちゃいます。

 最後は、合成うるしを塗って強度を上げていく作業です。合成うるしは金粉をつけるということだけではなくて、強度を上げる役割もあります。そこに金粉でお化粧をするイメージです。一番楽しいところだと思いますので、リラックスして楽しんで作業していただければと思います。

金の線で、器に“景色”を描く

 1日金継ぎでは合成うるしと金粉が混ざったものを使います。本漆の場合は、本漆だけ先に塗って、後に金粉を蒔くのですが、これが非常に難しいんですね。

―― 繊細な作業なのが想像できます。どのあたりが難しいのでしょうか。

 金粉を蒔くタイミングの見極めです。本漆を塗った直後に蒔くと、本漆に金粉が沈んでしまいます。逆に本漆が固まりすぎると接着力がなくなるため金粉が付きません。ベストなタイミングは表面だけに本漆の接着力がある状態ですが、作業環境の湿度や温度、本漆の状態によって全然違うわけです。

―― 漆を知り尽くした職人さんだから見極められるのですね。

 本漆の表面に息を吹きかけて状態を見極めて、蒔くタイミングを判断します。ここが非常に難しいのが、本漆金継ぎのハードルの1つですね。
 1日金継ぎでは、最初から合成うるしと金粉が混ぜられているものを使うので、早速塗っていきましょう。塗る場所は、くっつけた割れ目の部分、欠けを埋めた部分です。全部塗れたら完成となります。

―― 繊細な作業で手が震えますね。

 金の線に歪みがあったらダメとか、均一にするべき、というのは全くないので大丈夫です。
 金継ぎを施した部分を「景色」といいます。金継ぎされた跡が木の枝のように見えるねとか、川の流れのように見えるねとか、「景色」と呼んで愛でていたようです。

―― 金継ぎを自然の景色に例えるのが、日本人らしい素敵な表現ですね。

 自然界の中に直線はないですよね。細いところもあれば太いところもあって、さらにそこにはちょっと歪みがあったり。それってまさに木の枝の節であったりとか、川の幅の違いでもあります。もし同じ器があったとしても、この欠けはこの器だけしかなくて、自分で直した筆の跡っていうのが世界に1つだけしかないと、そんなものを楽しむものです。
 他にも、金継ぎした器は洗ったりすることで、経年で少しずつ剥がれていくものですが、それも“育っている”なんて表現したりします。不完全であること、そして経年による変化を楽しむんです。もちろん気になったら、また金粉を上から塗り直すこともできます。

器を繋げるだけじゃない、大切なものを継いでいく技術

―― 無事に完成です! 想像していたより何工程もありました。

 表面の金に注目されがちですが、幾つもの下地工程があります。そこを頑張ったから、金の綺麗さがあるわけです。そもそも、金継ぎの作業って結構大変じゃないですか。なんでそんなことをやってきたのかっていうことの方が大切かなと思っています。

 室町時代にも、割れた器はわざわざ直さずに捨てちゃう、という選択肢もあったと思うんですよね。漆を使うのは手がかぶれるし、湿度の調節も現代より大変だったでしょう。それでも使っていたのは、漆を塗ったものは長持ちすることを知っていたからじゃないでしょうか。昔の人たちが、自分たちの歴史や文化、大切なものを残そうと考えた結果、この方法に行きついたのではないかなと思います。

―― 萩原さんが金継ぎを始めたきっかけは?

 大学卒業後、滋賀県の美術館に就職したんです。上司から「休みの日には器を見に行きなさい」と言われまして、よく信楽焼の窯元へ足を運んでいました。窯元で器を見ている時、たまたま金継ぎの依頼を受けているところに遭遇したんですね。金継ぎという技術は知っていたのですが、一般生活に浸透しているわけではないと思っていました。しかしそこでは、器が割れたら窯元のところに持っていき、金継ぎで直してもらう、という文化が根付いていたんです。

―― サステナブルという視点でも現代にぴったりな文化ですね。

 割れた器を捨てたくない人たちはやっぱり一定数いるわけですよね。形見の器とか、プレゼントされた器、思い出がいっぱい詰まった器。器というのは、道具以上の存在だなと思います。金継ぎは、物理的に器を繋げるだけでなく、大切なものを後世に残していく、継いでいく、というような意味もあると思います。物を直すこともそうですが、メンタル的な部分、想いを直していくような感じもしますね。そういった感覚を提供できればと思います。

―― 確かに、金継ぎ自体が目的というよりは、想いを継ぐことを求めているのかもしれません。

 そうですね。最近では、金継ぎデザインのチョコレートやマドレーヌ、CDのデザイン、ファッションブランドのパッケージなど、様々な分野で金継ぎがモチーフとして使われています。経験を継ぐ、想いを継ぐ、人と人を継ぐ、いろんなものを継ぐ。意味のあるモチーフとして、金継ぎはぴったりです。

―― もっと金継ぎという選択肢が広まるといいですね。

 そうですね。そのためには課題も多くあります。例えば、金継ぎに必要な道具はたくさんありますが、それに関わる事業者さん、生産者さんが少なくなってきました。漆を研ぐのに使う「するが炭」をつくる職人さんや、そもそも日本産の漆も多くはありません。

 以前、1000人の方に器が割れたらどうするかアンケートを取ったところ、 88%の方が“捨てる”と回答しました。多分、“捨てたい”ではなくて、直せることを知らないだけだと思うんですよね。そういう方たちに金継ぎの選択肢を知ってもらうことが、私たちのミッションの一つです。

 単に物を修復する技術ではなく、日本の美意識を継承する文化であり、物語や記憶、想いを継ぐ「金継ぎ」。今回ご紹介した1日金継ぎは、誰でも気軽に体験できます。ぜひ、割れた器は、ご自身の手で金継ぎしてみてはいかがでしょうか。

■金継ぎ暮らしHP:https://kintsugikurashi.co.jp/
■金継ぎ暮らしInstagram:https://www.instagram.com/kintsugikurashi/

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